卒業論文 第1回レジメ(2002415

「バリアフリーの実現」         国際学部国際社会学科4年 佐藤美佐子

 

このテーマを選んだ理由

 私が初めに「バリアフリー」に興味を持ったのは、自分が自転車で移動するときに段差などに不満をもったことによる。自転車でも不便を感じるのだから、車いすに乗る人や足の不自由な人にとってはもっと深刻な問題なのではないか。そんな状況は変えなければいけない。そう思ったのがきっかけだった。それから、まちで不便な思いをしている人たち(高齢者、障害のある人、妊婦さんなど)を見て、道路だけでなくまちの至る所に障害物があるということに気づき、また、年をとるにつれて足腰が弱くなった祖母の姿を見て、家の中にも障害があることに気づき、何としたいと考えるようになった。さらに、人に何らかの困難を強いるものは物理的なものばかりでないということも知り、この社会は「バリア」だらけなのだと感じた。バリアの存在によってさまざまな権利や自由が侵されたままであってはならない、バリアをなくしていかなければならない。こういう思いが強くなり、そのためには何をすべきなのか、何が必要なのかをじっくり考えてみたいと思ったため、「バリアフリー」をテーマとして選んだのである。

 

1.身近なところで気づいたこと

・まちの変化

高齢化 若者の姿がない 高齢者の「隔離」

・不便な店内

狭い通路 車いす・ベビーカーが入れない だれもが買い物を楽しめる場ではない

・路上のゴミ、自転車

電動スクーターの妨げ 移動が困難

・家の中でも

  玄関の上がりがまち、敷居、風呂などの段差 トイレ 高齢者にとって厳しいつくり

 

2.進む高齢化

 日本の65歳以上人口割合(推計) 1)

  2000年――17.4

  2014年――25.3%(=総人口の4人に1人が高齢者

  2017年――27.0

  2033年――28.1%(=超高齢社会に突入)

  2033年――30.2

  2050年――35.7%(=総人口の2.8人に1人が高齢者

 

・年をとるにつれて

身体機能などの低下、病気にかかる可能性が高くなる、介護を必要とする可能性も

・年をとること

怖いこと、嫌なこと というマイナスイメージ←不安、負担

 

→高齢者が多い社会になるのだからこそ、不安や負担感を感じることなく快適に生活できる環境を作らなければならない

⇒だれにとっても暮らしやすい社会をつくる必要性

 

3.障害のある人にとってのまち

 障害者もあらゆる活動に参加する権利を持つ

「壁」の存在・・・物理的、社会的、制度的、心理的な障壁

 

・障害者や障害というものに対して理解がない

・身近なところで障害者と接する機会も少ない

・障害者も、そうでない人と同じ社会の中で生活しているという意識が薄い

・何かを作ったり始めたりする際に、障害者も利用したり参加したりするという考えがない(なかった)

・障害者の意見を聞いて取り入れようという姿勢がなかった

 

→障害者も快適に暮らすことのできる社会でなければならない

⇒「壁」をなくしていくことが必要

 

・日本における取り組み

 「相互の理解と交流」「社会へ向けた自立の基盤づくり」「日々の暮らしの基盤づくり」「住みよい環境の基盤づくり」という視点に立って行われている  2)

 しかし、理解を深めること、環境づくりに関しては、まだまだ身近なことになってきてはいない

 

4.「壁」(バリア)をなくす

 バリアフリー障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、もともとは建築用語として使用されていた。現在では、障害のある人だけでなく、全ての人の社会参加を困難にしている物理的、社会的、制度的、心理的な全ての障壁の除去という意味で用いられている

 

ユニバーサルデザイン設計段階から全ての人々が共通して利用できるようなものや環境を構想するという考え  3)

 

 バリアフリーとユニバーサルデザインの違い

 ・・・前者はもともとあったバリアを取り除くこと、それに対し後者は最初から取り除かれていること

現在はユニバーサルデザインを理想としつつ、バリアフリーの観点で実績を積み上げていこうとしている。 4)

 

 バリアフリーの取り組みに関して

 以下、200244日朝日新聞(インターネット上に掲載されたもの 5)より

 

障害者にとって行きやすく、観戦しやすい会場のベスト3は、神戸、埼玉、札幌。逆に、不便で危険個所が多いのが大阪――。サッカーW杯の国内10カ所の競技場と最寄り駅からの経路の「バリアフリー度」を、障害者団体やボランティアの若者が現地で調べた結果がまとまった。採点を左右したのは、どれだけ当事者の視点に立っているか、だったようだ。

 DPI日本会議、〈日本−在日−韓国〉ユースフォーラムの2団体が、各地の障害者らに呼びかけて、各会場を巡回。駅(200点)、駅からのアクセス(100点)、競技場(200点)に分け、減点式で採点した。

 視線確保がカギ

 競技場の評価が高いのは、宮城、横浜、新潟、神戸。車いす席からの「サイトライン」が確保されていることが、大きなポイントとなった。ほかの6カ所は前の席との高低差が小さく、総立ち状態になるとピッチが見えない。今回の調査で浮かび上がった点だ。

 茨城の場合、車いす席の一部は最前列にあって見やすいが、一般席と隔離され行き来できない。また、大半の競技場は、車いす客と一般客のゲートが別だった。

 「一般客との区別はバリアにほかならない。障害者の視点だけでなく、一緒に見て楽しみたいという、サッカーファンの視点も必要」とスタッフの石川明宏さん。

 当事者の声を

 評価が低いのは、最も建設が古い大阪・長居陸上競技場。車いす席前の通路が狭く転落の危険がある点が大きなマイナスとされたほか、車いすトイレが少なく、ドアの引き戸が重い点も厳しく採点された。同競技場からは、96年に改修した際、障害者施設関係者の意見は聴いたものの、当事者を交えた協議はしなかったと説明されたという。

 指摘を受けた大阪市のW杯推進室は、車いすが落ちないよう注意を呼びかけるため通路に黄色のペンキを塗るなどの対策を検討中だ。

 一方、昨年秋のみやぎ国体で「バリアフリー国体」を掲げた宮城、県としてユニバーサルデザイン施策に取り組む静岡などは、設計段階から障害者と意見交換。案内表示が低い位置にもある(宮城)、聴覚障害者用の磁気ループの充実(静岡)などに生かされた。

 駅、多い課題

 交通機関では、茨城は改札口からホームに行くのに階段しかない。転落防止のためのホームドアがあるのは、埼玉だけ。横浜は駅からの経路に案内板が少なかった。

 駅員が対応に慣れていないなど、ソフト面の課題も多い。静岡・JR愛野駅では「車いすの人は事前に連絡を」と掲示してあり、減点された。

 「どこも、当事者の視点が抜け落ちた『形だけのバリアフリー』が目立つ」と、車いすでチェックに参加した岡田智恵子さんは指摘する。

 韓国の団体とも協力し同様の調査をしており、日韓で近く提言をまとめる予定だ。

 

サッカーW杯国内10会場のバリアフリー度

 

会場(調査した最寄り駅)

総合点(500点満点)

駅(200点)

駅〜競技場(100点)

競技場(200点)

神戸ウイングスタジアム(御崎公園)

415

170

100

145

埼玉スタジアム2002(浦和美園)

410

175

100

135

札幌ドーム(福住)

395

155

100

140

横浜国際総合競技場(新横浜/小机)

345

110

70

165

大分スポーツ公園総合競技場・ビッグアイ(大分)

335

145

70

120

新潟スタジアム・ビッグスワン(新潟)

320

110

60

150

宮城スタジアム(利府)

315

95

50

170

静岡スタジアム・エコパ(愛野)

285

90

90

105

茨城県立カシマサッカースタジアム(鹿島神宮/鹿島サッカースタジアム)

265

50

100

115

大阪・長居陸上競技場(長居)

185

100

100

15

(*表は、200245日付朝日新聞朝刊に掲載された)

 バリアフリーチェックの調査結果、細かい内容は〈日本−在日−韓国〉ユースフォーラムのHP  6) に掲載されている

 

 問題点・・・当事者の視点に立っていない

  障害者がまちに出たりスポーツ観戦を楽しんだりするという考えがなかった

 →障害者がまちに出ることが悪いのではなく、自由に移動できないことが問題

 ⇒障害者の行動の自由が保障されなければならない

    ↓

 20005月「高齢者、身体障害者等の移動の円滑化の促進に関する法律」制定

(通称・交通バリアフリー法7)

 20024月「らくらくおでかけ度一覧表」(国土交通省)8)

 

 「らくらくおでかけ度一覧表」に関して

 200249日朝日新聞(インターネット上に掲載されたもの 9))より

 

 駅のバリアフリー化の状況が一目でわかる一覧表を国土交通省が作成した。9日午後から同省のホームページに掲載する。「らくらくおでかけ度一覧表」と名づけられ、駅ごとに星印の数で、車いすでの利用のしやすさがわかる。

 星印は、三つ「☆☆☆」が駅の出入り口からすべてのホームまで段差なく移動できる「単独で利用可能な駅」、二つ「☆☆」が一部エスカレーターか階段昇降機がある「簡単な介助が必要な駅」、一つ「☆」が階段などが残っている「段差が残っている駅」。

 平均利用者が1日5000人以上の駅を中心にまとめ、年度末ごとに更新の予定だ。319日現在の集計では、3361駅のうち、星三つが1199駅、二つが526駅、一つが1636駅。

 主要駅をみると、「星三つ」が札幌市営地下鉄さっぽろ駅、JR品川駅、阪急電鉄梅田駅、福岡市営地下鉄博多駅。

 「星二つ」がJR札幌駅、JR東京駅、JR名古屋駅、大阪市営地下鉄なんば駅。「星一つ」がJR大宮駅、名古屋市営地下鉄栄駅、JR大阪駅となっている。

 

 バリアフリーの実現が必要なのは交通機関に関してだけではないが、一歩一歩進めていくことが大切

 

5.まちづくりとバリアフリー

 だれもが暮らしやすいこと、移動しやすいことが、これからのまちには必要

 何らかの理由で移動が困難な人であっても、まちに出たいという欲求はある

 →「タウンモビリティ

 

 タウンモビリティ

・・・電動スクーター(三輪・四輪で時速6km以下),車椅子などを商店街に用意し,障害・病気・ケガ・高齢などのため常時または一時的にスムーズな移動が難しい人々に無料で提供,ショッピングをふくめ町の諸施設を利用できるようにするシステム 10)

 

 効果

 ・・・売上増への期待(新規客層の取り込みなどによる)、バリアフリー化の推進(ハード面、ソフト面において)、高齢者・障害者の自立促進(→「生活の質の向上」、学生ボランティアとの「世代間交流」、家族介護者の「一時的解放」)、まちの活性化・賑わいづくり 11)

 

⇒これからのまちづくりに取り入れるべき視点の一つ

 

6.これからの社会

・高齢者も障害者も社会の一員

・生きていれば年をとるし、いつどんなことが原因で障害を持つか分からない

→他人事では済まされない

 

身体的に不自由なところがあっても、制度や設備、そして周りの人がそれをカバーしてくれることによって、必要以上の不自由さを感じずにすむのではないか

 

 「ノーマライゼーション」:

・一般的には、障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方

障害者であろうと健常者であろうと、同じ条件で生活を送ることができる成熟した社会に改善していこうという営みのすべてをノーマライゼーションといい、障害者が障害がありながらも、普通の市民と同じ生活ができるような環境づくりこそがノーマライゼーションの目的 12)

・北欧の障害者福祉の中から生まれてきた考え方であり手法であるが、今日では我が国を含めすべての国々の障害者福祉の共通理念になっているといっても過言ではない。そこでは、従来、障害者や高齢者などの社会的弱者を正常(ノーマル)なものとせず社会から隔離する傾向にあったことを反省し、むしろ一定の弱者が存在する社会こそが正常であると理解される。これは決して、障害を軽減して「正常」に近づける、あるいは、施設の中における生活環境条件を社会に近いものにするという意味ではない。むしろ、あるがままの障害者が、地域で障害のない者と同様の社会生活をおくることを可能とするための条件整備を行うことがノーマライゼーションの中心課題である 13)

 

⇒これからの社会に必要な考え方

 行政と地域住民(当事者も含む)との協働による、だれにとってもやさしいまちづくりが望まれる

 

 

次回以降やっていくこと

 バリアフリーやユニバーサルデザインが、実際のまちづくり、施策にどのように取り入れられているのかについて調べていく

 

 



1) 国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(平成141年推計) 

http://www.ipss.go.jp/Japanese/newest02/newest02.htmlより

2) 障害者白書(内閣府)http://www8.cao.go.jp/shougai/による

3) 「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」ともに 平成12年度版「障害者白書」より

4) to Universal Design from Barrier Freehttp://www.sfc.keio.ac.jp/~s99433as/ud/ より

5) http://www2.asahi.com/2002wcup/kaisai/kobe/020404a.html より

6) http://youth-forum.soc.or.jp/

7) 詳しくは、国土交通省HP内の「安心して移動できる社会を目指して〜交通バリアフリー〜」http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrier/mokuji_.htmlに掲載されている

8) 国土交通省HP内「鉄軌道駅のバリアフリー化の状況(らくらくおでかけ度一覧表)の公表について」http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/01/010409_.htmlより

9) http://www.asahi.com/national/update/0409/020.htmlより

10) 「タウンモビリティ」HP http://www.c-haus.or.jp/townmobility/より

11) 「バリアフリー協会」HP http://www.bfa.gr.jp/より

12) 岩手県HP内「キーワード講座」http://www.pref.iwate.jp/~hp1353/keyword/main.htmlより

13) (財)日本障害者リハビリテーション協会発行「ノーマライゼーション 障害者の福祉」199510月号掲載の<気になるカタカナ>久保耕造氏 

http://www.dinf.org/doc/prdl/jsrd/norma/nrm001/n171_040.htmより